2020/02/14

Dumb Type《pH》


見惚れる時間はゆったりと濃厚に感じる。引き伸ばされたネガのような一瞬。

ダンサー。なんて美しい生きものなの。必要最低限の布を纏い、ハイヒールで障害物を飛び越える。可憐なネグリジェがぐしゃぐしゃになっていくのもお構いなしでいて。本能の慟哭が突き刺すままに動いている。規則正しい。しかし平衡が正義とは限らない。その知性にしか宿らない。決して見せてはいけない。

白薔薇の祈り。呆気ない。そのピンヒールはどんなに蹴っても折れないのに。脚のほうが先に砕けるがゆえに。むしり取った蝶の翅で何を描くというの。

喋る楽器。生きものの気配の音。性別なんて本当なら必要なかった。うなる波音。貝殻の奥で。ビルの頂上で。円舞曲だって輪舞曲だって感情を吐露できれば痛みも同じ。

足枷、じゃらじゃらと重たい鎖。その無駄に高いプライドなんじゃないの。大して生きていないし、読んでもいない。
草花は朽ちて枯れる。本当に眼が見えなくなっていく。これからも。見たいものだけ選んで見ればいい。こういう台詞が通じない世間だし、家だから、くるしい。海に撒いてほしい。海、空、砂、星、待っていてくれる。もうすこしボリュームを下げて。歩く速度で。

2020/02/11

さいきん観た映画の羅列

最後更新してから観て面白かった映画
『しとやかな獣』(1962)/『夏の庭』(1994)/『天国の口、終りの楽園。』(2001)/『本当に僕じゃない!』(2008)/『たそがれ酒場』(1955)/『アメリカの影』(1959)/『風の中の子供』(1937)/『メアリー&マックス』(2008)/『蜂の巣の子供たち』(1948)/『9人の翻訳家』(2019)/『パチンカー奈美』(1992)/『バード★シット』(1970)/『THUNDER』(1982)/『みかへりの塔』(1941)/『その後の蜂の巣の子供たち』(1951)/『やわらかい肌』(1998)/『かえるのうた/援助交際物語 したがるオンナたち』(2005)/『フェリーニのアマルコルド』(1974)って感じ

4冠獲得した『パラサイト』(2019)が今話題になってるけど、それと一緒に地味に話題になってた『しとやかな獣』は確かに面白かった。吉田喜重とか増村保造を想起させる(というか年代だいたい一緒だよね)舞台セットの緻密さ、構図へのこだわりにめちゃくちゃ萌える〜舞台セットの素晴らしさといえば『たそがれ酒場』も素晴らしかったし、ヴィスコンティ『白夜』もめちゃくちゃワクワクした。超ありきたりだけど私が舞台セットでいちばんワクワクしたのは『白い恐怖』(1945)です。超ありきたり…でもめちゃくちゃ好き!
修士論文を提出して、口頭試問も終わった私はいまスーパー無敵暇モードに突入してるんだけど、見事にお金はないし、ひとと会うのも疲れちゃうので、最近はもっぱら家で映画観る、本読む、たまに映画館行く、なかよしと酒飲む!のエンドレスリピート。あとランニングも始めた。初めてアイドルにもハマりだした。暇の境地。仲良くもない母親にケーキ餌付けしたりしてる。
で、暇すぎるからいま2週間無料のアマゾンのWOWOWシネフィル+?に登録した。そこでカサヴェテスを一気に観たんだけど(『こわれゆく女』(1974)くらいしか観たことなかった)居心地の悪い空間を作り出す天才だと思った。『アメリカの影』は本当に面白かったし、さいきんできた吉祥寺の古本屋にDVD売ってたからまだあったら買いたい…アマゾンのやつではフェリーニもヴァルダもあった。あと、『流されて…』(1974)もあって(これのヒロインがインスタでずっと推してるモデルに似てたから見て→https://www.instagram.com/uglyworldwide/?hl=ja)、あとともだちから貸してもらった『バード★シット』、この2本は父が昔買い集めてた映画のパンフレットの山に埋もれてたから観れてうれしかった。父親が若い頃はパンフレットが激安だったらしくて心底羨ましい、でもこうやって昔を羨むバカがいちばん嫌い。
無料乞食の私なのでGYAOでもよく映画を漁るんだけど、『やわらかい肌』がかなり!面白かった。最初は『逆噴射家族』(1984)かな〜って思ってたんだけど、それをはるかにブチ越えたキチガイレベル。お母ちゃんが家族が構ってくれないから拗ねて、テレクラの男ひっかけて2人で共謀してお母ちゃんが攫われたってことにして、家族をまた集結させよう!って計画する話。チェーンソー持ってる謎の女の子が最高。ずっと騒がしいのにラストで一気に静かになるのもサイコーにセンスイイ。家族もの観たからこの調子でケンローチでも観ようかなガハハ
あとは映画館で観たやつでは『9人の翻訳家』がめちゃくちゃ好きな感じだった。地元の仲良いおじさんが薦めてくれて、何の前情報なしに観たんだけど『このサイテーな世界の終わり』のアレックス・ローサーが出てて激・萌〜だった。編集下手だなって思ったけど、脚本が面白いし何よりキャスティングがサイコーだった(ドイツ人が特にヤバい)。

で、さいきん何より私がフォーリン・ラブしてるのは清水宏!このためにラピュタの子ども特集にせっせと通ってる。フィルマークスでも清水宏の描く子どもはキアロスタミのそれに似ている〜〜タラタラ〜〜と大量に書かれてるからそんな野暮なことは言えない…んだけどマジで清水宏作品に出てくる子どもは裕福であっても、戦争孤児であっても等しくやさしく描かれていて本当に好き。
なかでもビビったのは『風の中の子供』の中盤、男の子がタライの中に入って川に流されるシーン。これは『ドリーの冒険』(1908)を思い出さずにはいられない!というかそれよりもすごいんじゃないかと思う。だって『ドリーの冒険』では実際にはドリーは樽に入ってないんだけど、こっちはガチでタライに乗ってどんぶらこしてる。その男の子を一時預かることになった金持ちのおじさんが馬に乗ってそのタライを追いかけるんだけど、それを観て観客は物語的サスペンスも感じるし、視覚的にもハラハラするに決まってるわけ、すごーい、古典的ハリウッド映画かよ!でも古典的ハリウッドとはやっぱり違うのは清水宏作品には過度なクローズアップがない。子どもたちはつねに等しく映しだされる。故意に感情移入させることなく物語は進むし、気付いたら終わっちゃう。そういう映画が私は好きだ〜。『蜂の巣の子供たち』、『その後の蜂の巣の〜』も本当に良かった!戦争孤児の話なんだけど、清水宏は実際にも孤児を引き取ってたらしい。前者の始まりには「この子どもに見覚えはありませんか」みたいなことがバーンと書かれて始まるんだけど、それで実際に親が見つかったりしたらしい。後者では前者の作品で死んだ設定の子どもが平気で生きてたりする、メタフィクションサイコー。こういうのばっかり好きになるな。気が向いたらちゃんと書き残しておきたい。
『その後の蜂の巣の〜』を観た後、ラピュタを出たところで煙草を吸ってたら目の前の道で物語に出てきた子どもたちと同い年くらいの女の子たちが遊んでて、久しぶりに子どもが可愛いと思えた(別に可愛いと思わなきゃいけないなんて思わないし、子ども=可愛いが私的に永遠に謎)。天気が良くて無駄に輝いて見えた感じはする。子どもが苦手なくせに、子どもの出てくる映画を好む私(でも『ムーンライズ・キングダム』みたいなのは苦手。『ジョジョ・ラビット』もきっと無理。)を家族は不気味がるけど自分でもなんでなのかわからない。よくわからん憧れがスクリーンにはある。暇すぎて嫌なことばっかり考えちゃうし、それで泣いちゃうのも悲しいからノンストップで映画観てるけどなんかもうちょっと考えたーいと思いながらブログ書いてたけど結局薄っぺらい感想で終わる。まずはラピュタで買った清水宏の本を読むところから始めたい。


2020/02/09

2020年1月に観た映画。

せっかく仲間に入れてもらったからいい加減書くね。

1月に観た映画合計51本。
『ベン・スティラー 人生は最悪だ!』
『アメリカの影』〇〇
『暗黒街の顔役 十一人のギャング』
『監獄人別帳』
『殺し屋人別帳』〇
『お遊さま』
『西鶴一代女』
『明治大正昭和 猟奇女犯罪史』
『濡れた荒野を走れ』〇
『生まれながらの悪女』
『不審者』
『静かについて来い』
『クレイマー、クレイマー』〇
『愛に濡れたわたし』〇
『女王蜂と大学の竜』
『続・決着』
『薔薇の標的』〇〇
『人情紙風船』
『八州遊侠伝 男の盃』
『眠りの館』
『夏時間の庭』〇
『無頼平野』
『網走番外地 望郷篇』
『登り竜 鉄火肌』
『団鬼六 花嫁人形』〇〇
『セクシー地帯』
『薔薇の葬列』
『修羅』〇
『密猟妻 奥のうずき』〇〇
『音楽』
『ワイルドツアー』〇
『ニワトリはハダシだ』〇
『喜劇 女は度胸』
『現代人』〇
『足にさわった女』
『顔』
『スケバンマフィア 肉刑』〇
『戦争と平和』
『阿賀に生きる』〇〇
『やさぐれ姐御伝 総括リンチ』
『血の婚礼』
『如何なる星の下に』〇
『破戒』
『恋人』〇
『本当に僕じゃない!』
『エクスプローディング・ガール』〇
『彼らは生きていた』〇
『遙かなる男』
『拳銃無宿 脱獄のブルース』
『ねじ式映画 私は女優?』〇
『肉屋』〇

ラピュタ阿佐ヶ谷の石井輝男特集とシネマヴェーラ渋谷の池部良特集には結構通った。去年の11月末から2か月間続いた石井輝男特集で浴びるように石井輝男の映画を観たが、後半戦になるともうなにが面白くて観に行ってるのかよくわからなくなっていた。それでも、"観たことのない昔の映画を出来るだけスクリーンで観ること"がすっかり習慣になってしまっている僕は、「たいして面白くないんだろうな」と思った映画でも、なるべく映画館で観たいのだ。観た結果、退屈はしないけどそんなに面白くもない。やっぱり。やっぱり!そして観たそばから忘れていく。「ああ、他に観るべき映画があったのではないか。ああ、一人で映画なんか観るより友達と遊んだほうが絶対に楽しいのに。」帰り道にしょっちゅうそんなことを考える。国立映画アーカイブの主任研究員でいらっしゃる岡田秀則さんの『映画という《物体X》 フィルム・アーカイブの眼で見た映画』をこのあいだ吉祥寺バサラブックスで買ったので最近持ち歩いて読んでいるのだけど、これがべらぼうに面白い。第一章で「すべての映画は平等である」と高らかに宣言がなされている。それはあくまでもフィルム・アーキビストの視点ではあるのだが、ちょうど面白くない映画を観た帰り道にこの本をめくると、田中小実昌の「面白くない映画を観ることで人間は深みを増す」という文言が引用されていて、僕は少し救われた気持ちになったのだった。いや僕に全然深みはないのだけれども、それにつけても田中小実昌の映画エッセイは面白い。弁当を携えてバスに乗り入替無し3本立てを観に向かう映画観客としてのコミさん、東映のポルノにちゃっかりチョイ役で出演する俳優としてのコミさんには、いつも感嘆させられるのだった。肝心の小説は読んだことがない。僕は良くない読者です。
映画館だけでは飽き足らず、U-NEXTにしっかり加入した。家で映画を観る習慣がほとんどなかったが、最近は寝る前だとか無駄に早起きした朝だとかにU-NEXTを活用している。1月に観た作品で言えば、『団鬼六 花嫁人形』『密猟妻 奥のうずき』は格別に素晴らしかった。どちらも日活ロマンポルノで、映画ライターである真魚八重子さんの新刊『血とエロスはいとこ同士』で取り上げられていた作品。ことあるごとに参照していた真魚さんのブログ「アヌトパンナ・アニルッダ」(今現在非公開なのが悲しい)をまとめた本で、映画ガイドとしてこれほと頼りがいのあるものはない。森崎東『喜劇 特出しヒモ天国』についてのエントリーなどは何度も読み返した覚えがある。先月は、いつもガラ空きでおなじみの北千住のシネマブルースタジオで森崎東特集が組まれていて、比較的最近の『ニワトリはハダシだ』を観た。これも素晴らしかった。黒木和雄のすばらしいすばらしい劇映画『竜馬暗殺』の中川梨絵、原田芳雄、石橋蓮司がまたスクリーンで共演していて、それだけで感動だった。現実社会の問題と対峙しつつも、森崎東はいつだってイデオロギーを超えていく。
2月はラピュタ阿佐ヶ谷で新たに始まった「映画の中の子供」特集、シネマヴェーラ渋谷の新藤兼人特集、国立映画アーカイブの「戦後日本ドキュメンタリー映画再考」など、面白そうな企画が多すぎて忙しい。名画座かんぺとにらめっこしながらウンウンと悩んでいる。バイト先(古書店)の店長が海外旅行に行くのでシフトは変則的だし余計に悩ましい。関係ないけど店番暇なのでみんな遊びに来てください。
友川カズキのドキュメンタリーが公開中だ。再来週あたり観に行く。僕もいくつになっても遊びたい。んじゃ寝るわ!